日本美術サウンドアーカイヴ告知

畠中実さん(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]主任学芸員)と新しくプロジェクトをはじめます。音と関わる日本の美術作品を聞いていくプロジェクト「日本美術サウンドアーカイヴ」です。2018年のはじめからイベントや展示を開催し、しばらく定期的に継続していく予定です。レコード、エディションの制作なども計画しています。

日本美術サウンドアーカイヴ

 日本にはこれまでに、美術館や画廊、アトリエや公共空間でさまざまな音を鳴り響かせてきた美術家がいる。しかし、ほとんどの音は鳴り止んでしまえば、再び聞くことがかなわなかった。視覚資料を中心とする美術史のなかで、音をめぐる情報はどうしても断片的なままに留まってしまう。日本美術サウンドアーカイヴはこうした美術家たちによる参照しにくい過去の音にアクセスしようとするプロジェクトである。
 作家や関係者へのインタビュー、文献調査、作家が所有する録音などを通じて、過去の作品にまつわる情報を収集し、整理する。そして、作品の再制作や再演を作家に依頼し、もしくは自分たちの手で行い、展覧会、イベント、レコードなどのかたちで発表していく。このような活動を通じて、日本美術における音の意義を検討し、その可能性を開くための基盤をつくりだしたい。
 日本美術における過去の音について考えようとするとき、現代の私たちはたくさんの問いに出会う。それは各時代の美術の動向のなかでいかに位置づけられたのか。音楽をはじめとする同時代の他の芸術といかに結びつき、区別されたのか。同時代の聴覚文化や視覚文化といかに関わってきたのか。これらの問いを前にした人が、まず音に向きあうことから探求をはじめられるようにすることは、このプロジェクトの大きな目的のひとつである。

2017年10月 金子智太郎 畠中実


まず年明け1月7日に、堀浩哉さんの作品《Reading Affair》(1977年)の再演を三鷹SCOOLで開催します。また堀浩哉さん+堀えりぜさんによる《Reading Affair》の新作も上演します。トークとレクチャーではこのプロジェクトの趣旨や、堀さんの70年代作品、また1960-70年代における音と関わる美術作品の背景などについて論じる予定です。


日本美術サウンドアーカイヴ──堀浩哉《Reading Affair》1977年

日時 1月7日(日)15:00-19:00
会場 三鷹 SCOOL http://scool.jp/
入場料 予約2500円/当日3000円
予約ページ http://scool.jp/event/20180107/
協力 ミヅマアートギャラリー

上演作品
堀浩哉《Reading Affair》(1977年、ファリデ・カド・ギャラリー(パリ))再演
堀浩哉+堀えりぜによる《Reading Affair》の新作

レクチャー、トーク
出演 堀浩哉、畠中実、金子智太郎




SCOOLでのイベントの翌週1月14日から南青山 Art & Space ここからで、稲憲一郎さんの作品《record》(1973年、再制作)の展示を一週間開催します。そして翌月の2月11日からは同じ会場で、高見澤文雄(「高」はハシゴの高)さんの作品《柵を越えた羊の数》(1974年、再制作)の展示を開催します。どちらも初日にトークイベントがあります。また会場では関連するエディションの販売をする予定です。


日本美術サウンドアーカイヴ──稲憲一郎《record》1973年

日時 1月14日(日)〜1月20日(土)12:00-20:00(月曜休廊、最終日は12:00-17:00)
会場 南青山 Art & Space ここから https://cococara-minamiaoyama.jimdo.com/

展示作品
稲憲一郎《record》(1973年)再制作 他

トークイベント
1月14日(日)19:00-20:30
会場 南青山 Art & Space ここから
入場料 1000円
予約ページ https://cococara-minamiaoyama.jimdo.com/日本美術サウンドアーカイヴ特設ページ
出演 稲憲一郎、金子智太郎



日本美術サウンドアーカイヴ──高見澤文雄《柵を越えた羊の数》1974年

日時 2月11日(日)〜2月17日(土)12:00-20:00(月曜休廊、最終日は12:00-17:00)
会場 南青山 Art & Space ここから https://cococara-minamiaoyama.jimdo.com/

展示作品
高見澤文雄《柵を越えた羊の数》(1974年)再制作 他

トークイベント
2月11日(日)19:00-20:30
会場 南青山 Art & Space ここから
入場料 1000円
予約ページ https://cococara-minamiaoyama.jimdo.com/日本美術サウンドアーカイヴ特設ページ
出演 高見澤文雄、金子智太郎



作家プロフィールや作品画像などの詳細はサイトにて。

再演・再制作していただく3作品は、日本美術と音の関わりにとってどれも非常に重要な作品です。テープレコーダーを使うことなど、いくつかの共通点がありますが、作品の背景を知るほど違いも見えてきます。これらの作品は同時代の美術の動向のなかでいかに位置づけられたのか。同時代の他の芸術、および聴覚文化といかに関わるのか。それぞれの作品にとっての音の意義とは。こうしたことを実際に音を聞きながら考える機会になれば。会場では詳細な情報を記したリーフレットを配布する予定です。ぜひお越しください。

「生録」研究の進捗

近年あちこちで話してきた、1970年代に流行した「生録」についての論文が今年の春に出版されました。本文をサイトに掲載しているので、ぜひご一読ください。サイトでは図版を省略していますが、PDFファイルには掲載しています。


一九七〇年代の日本における生録文化──録音の技法と楽しみ
https://tomotarokaneko.com/works/work2/


要旨

 一九七〇年代の日本において、さまざまな音の録音を楽しむ「生録」という文化がオーディオ愛好家を中心に流行した。録音家たちはSLや伝統行事の音、野鳥の声といった現実音を録るために、携帯型テープ・レコーダーを持ち歩き、野外でマイクロフォンを構えた。オーディオ誌だけでなく各種の一般誌にも生録についての記事が掲載され、生録専門誌、コンテスト、同好会、ラジオ番組なども生まれた。

 音や聴覚をめぐる学際的研究においては近年、歴史的・文化的に構成された聴取のあり方が「聴覚性(aurality)」と呼ばれ、特に音響技術を通じた聴取の研究が盛んである。本論文は一九七〇年代日本の生録文化を調査し、録音家たちがマイクロフォンを通じて現実の音をいかに聞いていたのかを考える。当時、数多く出版された生録入門記事や入門書のなかで、専門家たちは初心者に対して録音機器の扱い方だけでなく、録音とは何か、人間の耳はいかに働くのかといった解説も行っていた。本論文はこうした議論にもとづいて生録文化における聴取のあり方を理解しようと試みる。さらに、日本のテープ録音文化の展開や、オーディオ・メーカー、オーディオ・ジャーナリズム、FMラジオの役割といった生録ブームの背景についても考察し、これらが生録の聴覚性にいかなる影響をもたらしたのかについても検討する。 生録文化においてはステレオ録音の創造性が重視されていた。この認識は上記の多様なコンテクストの関係性のなかから生まれてきたと考えられる。



この論文は生録の流行の概要について書いています。今後も個別の論点を追っていくつもりです。生録関連の音源の公開など、新しいプロジェクトも計画しています。

表象文化論学会で先日発表した、70年代の現代美術における音響技術の使用についても論文を執筆中です。こちらも関連企画を準備中です。

サイト開設、2017年度前半の活動報告

サイト開設のお知らせ

業績をまとめたサイトをつくりました。https://tomotarokaneko.com/

以前『アルテス』に連載した洋書レビューを全文掲載しています。このブログのプロフィールに掲載していた情報はこちらに移しました。今後ブログにはこのサイトの更新情報を掲載していきます。



2017年度前半の活動報告

論文などがいくつか出版されました。すべて上記サイトで公開しています。

  • 国際学会プロシーディング Tomotaro Kaneko, “Self-Discovery Through Sound Recording: The Aesthetics of Namaroku in 1970s Japan,” in International Congress of Aesthetics 2016 Proceedings, 2017.
  • 論文 金子智太郎「一九七〇年代の日本における生録文化──録音の技法と楽しみ」『カリスタ』23号、2017年、84-112頁。
  • 調査報告 KANEKO, Tomotaro. NAKAGAWA, Katsushi. “Research on the Development of Sound Art in Asian Countries: On “Sound Effects Seoul” Series (Interview with Ji Yoon Yang and Chulki Hong),” in Tokiwadai Journal of Human Sciences, vol.3(1), 2017, pp.161-173.
  • 調査報告 中川克志、金子智太郎「日本におけるサウンド・アートの展開──〈1980年代日本における音具〉をめぐるいくつかの文脈」『京都国立近代美術館研究論集 CROSS SECTIONS』第8号、2017年、36-43頁。
  • 展覧会カタログ 金子智太郎「人工風景を通じて自己を聴く──上村洋一のフィールド・レコーディング作品」『普遍的な風景』国際芸術センター青森、2017年、48-51頁。


日文研表象文化論学会で発表をしました。

  • 金子智太郎「「環境」からの逸脱──1970年代日本の現代美術における音響技術」表象文化論学会、アーツ前橋、2017年。
  • 金子智太郎「録音の規範と偏差──1970年代の録音紀行から」共同研究会「音と聴覚の文化史」、国際日本文化研究センター、2017年。

「音の展開2017」・2016年度の活動報告

artscapeにレビュー「音の展開2017」が公開されました。主にこの冬の3つのコンサートについて書いています。

下は以前artscapeに書いた関連記事です。こちらも合わせてぜひ。

これから2016年度の成果がいくつか出版される予定です。

  • 1970年代の生録文化についての論文
  • 中川克志さんとの調査報告1 Sound Effects Seoul Festivalについて
  • 中川克志さんとの調査報告2 1980年代の音具をめぐって
  • 国際芸術センター青森「普遍的な風景」展カタログへの寄稿

出版されたら順にresearchmapに上げていきます。http://researchmap.jp/read0148933/


また今年度は次の学会発表をしました。

  • "The Namaroku boom: Stereophonic field recording in 1970s Japan," Sound Art Matters, Aarhus University, 2016.
  • 「音による出来事の表現の展開ーー録音コンテストの記録から」藝術学関連学会連合第11回公開シンポジウム、早稲田大学、2016年。
  • "Self-Discovery Through Sound Recording: The Aesthetics of Namaroku in the 1970s Japan," International Congress of Aesthetics 2016, Seoul National University, 2016.
  • 「テープ・レコーダーとして表現された主体ーー高見沢文雄《柵を越えた羊の数》」美学会全国大会、同志社大学、2016年。

音響文化研究会トークイベント第5回 4月23日(土)本屋B&B

昨年8月から続けてきた音響文化研究会トークイベントは次回が最終回です。第5回を下北沢の本屋B&Bで開催します。今回はジョナサン・スターン『聞こえくる過去』(インスクリプト)刊行記念イベントでもあります。


ジョナサン・スターン『聞こえくる過去』刊行記念
音響文化研究会トークイベント

#5 「見る」ための音――障害と音響技術の関わり

エジソンは録音技術を目の見えない人のための本にしようとしました。ジョナサン・スターンは『聞こえくる過去』のなかで、聴覚障害が録音技術の成りたちに深く関わっていたと考えます。今回は、音響技術が障害といかに関わってきたかをテーマにお話を伺います。ゲストは視覚障害者の世界をあざやかに描いた『目の見えない人は世界をどう見ているのか』の著者、美学研究者の伊藤亜紗さんと、補聴器やオーディオ・ブックの歴史を研究されている瀬野豪志さんです。

ゲスト:伊藤亜紗東京工業大学准教授)、瀬野豪志(蘇音 音響技術史)
日時:2016年4月23日土曜日 15:00〜17:00 (14:30開場)
場所:本屋B&B 世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
入場料:1500yen + 1 drink order

お申し込みは、本屋B&Bのサイトのこちらからお願いします。
http://bookandbeer.com/event/20160423_miruoto/

INSCRIPT 『聞こえくる過去』刊行記念トークイベント開催!
http://www.inscript.co.jp/


音響文化研究会トークイベント全体の詳細はこちらのサイトをご覧ください。
音響文化研究会トークイベント 交差する音の技術と音の文化 http://soundstudies.jp/
音響文化研究会トークイベントについて http://soundstudies.jp/info/



「「見る」ための音――障害と音響技術の関わり」と題した今回は、感覚と音響技術の結びつきを、特に障害という場面にしぼって具体的に見ていきます。補聴器や誘導用チャイム、オーディオ・ブック、人工内耳に至るまで、さまざまな音響技術が視覚・聴覚の障害と関わっています。目の見えない人がこうした技術を通じて世界を「見る」ノウハウは、技術と感覚の関わりをめぐる豊かな発想をもたらしてくれるかもしれない、多くの研究者がそう考えてきました。レコードや電話、ラジオがいかなる状況のなかで生まれたのかを論じた『聞こえくる過去』の著者スターンもその一人です。

上の画像は『聞こえくる過去』の一ページ、挿絵に描かれているのは19世紀末のアメリカにあらわれた「電話人間」ことJ・C・チェスターです。当時、録音技術は聴覚障害の治療にも使われ、チェスターは自分の耳を「活性化」するために電話を「自分に配線」したと記録されています。こういう奇妙な話や図版をいくつも織りまぜて語るところが『聞こえくる過去』の魅力のひとつです。今回のトークも障害と音響技術の関係にまつわるユーモラスな話、怪しげな話、映像や音声を交えながら進めます。

今回のみ有料になりますが、ドリンクを片手にゆったり見聞きしていただけます。ぜひお越しください!

音響文化研究会トークイベント第2回 9月26日(土)東京藝術大学

音響文化研究会トークイベントの2回目を東京藝術大学で開催します。今回のテーマは「新しい「楽器」をつくるーー録音と電子楽器以降の楽器」です。音楽や楽器に関心のある方だけでなく、メディアと創作の関係に興味のある方なら誰でも楽しめる内容にしたいと思っています。『音響メディア史』もそういう内容ですね。


#2 新しい「楽器」をつくる――録音と電子楽器以降の楽器 http://soundstudies.jp/s02/
ゲスト 斉田一樹(木下研究所 客員所長)

入場無料 (予約の必要もありません。)
9月26日(土)17時〜19時
東京藝術大学美術学部中央棟1階、第2講義室
アクセス:http://www.geidai.ac.jp/access/ueno
(中央棟は美術学部キャンパス中央の建物(7番)です。第2講義室は玄関入ってすぐ右にあります。)

ぜひお越しください!


音響文化研究会トークイベント全体の詳細はこちらのサイトをご覧ください。
音響文化研究会トークイベント 交差する音の技術と音の文化 http://soundstudies.jp/
音響文化研究会トークイベントについて http://soundstudies.jp/info/

8月28日に開催された第1回の記録はこちらです。近日中にさらなる詳細を公開する予定です。
#1 日本の機械録音時代 http://soundstudies.jp/01/


音響文化研究会トークイベント第1回 8月28日(金)京都MEDIASHOP

谷口文和・中川克志・福田裕大『音響メディア史』(ナカニシヤ、2015)と、ジョナサン・スターン『聞こえくる過去』(インスクリプト、近刊予定)の出版にあわせて、連続トークイベントを開催します。

イベントの詳細はこちらのサイトをご覧ください。
音響文化研究会トークイベント 交差する音の技術と音の文化 http://soundstudies.jp/
音響文化研究会トークイベントについて http://soundstudies.jp/info/


第1回は今週金曜28日に、京都のMEDIASHOPで開催します。19時開始です。
#1 日本の機械録音時代 http://soundstudies.jp/01/

第2回は来月9月26日(土)に東京藝術大学で開催します。17時開始です。
#2 新しい「楽器」をつくる――録音と電子楽器以降の楽器 http://soundstudies.jp/s02/


どちらの回も入場無料です。ぜひお越しください!