「生録」研究の進捗

近年あちこちで話してきた、1970年代に流行した「生録」についての論文が今年の春に出版されました。本文をサイトに掲載しているので、ぜひご一読ください。サイトでは図版を省略していますが、PDFファイルには掲載しています。


一九七〇年代の日本における生録文化──録音の技法と楽しみ
https://tomotarokaneko.com/works/work2/


要旨

 一九七〇年代の日本において、さまざまな音の録音を楽しむ「生録」という文化がオーディオ愛好家を中心に流行した。録音家たちはSLや伝統行事の音、野鳥の声といった現実音を録るために、携帯型テープ・レコーダーを持ち歩き、野外でマイクロフォンを構えた。オーディオ誌だけでなく各種の一般誌にも生録についての記事が掲載され、生録専門誌、コンテスト、同好会、ラジオ番組なども生まれた。

 音や聴覚をめぐる学際的研究においては近年、歴史的・文化的に構成された聴取のあり方が「聴覚性(aurality)」と呼ばれ、特に音響技術を通じた聴取の研究が盛んである。本論文は一九七〇年代日本の生録文化を調査し、録音家たちがマイクロフォンを通じて現実の音をいかに聞いていたのかを考える。当時、数多く出版された生録入門記事や入門書のなかで、専門家たちは初心者に対して録音機器の扱い方だけでなく、録音とは何か、人間の耳はいかに働くのかといった解説も行っていた。本論文はこうした議論にもとづいて生録文化における聴取のあり方を理解しようと試みる。さらに、日本のテープ録音文化の展開や、オーディオ・メーカー、オーディオ・ジャーナリズム、FMラジオの役割といった生録ブームの背景についても考察し、これらが生録の聴覚性にいかなる影響をもたらしたのかについても検討する。 生録文化においてはステレオ録音の創造性が重視されていた。この認識は上記の多様なコンテクストの関係性のなかから生まれてきたと考えられる。



この論文は生録の流行の概要について書いています。今後も個別の論点を追っていくつもりです。生録関連の音源の公開など、新しいプロジェクトも計画しています。

表象文化論学会で先日発表した、70年代の現代美術における音響技術の使用についても論文を執筆中です。こちらも関連企画を準備中です。